筋力低下の原因はさまざまですが、主に以下のような要因が考えられます:
加齢: 年齢を重ねると筋肉量が減少し、筋力も低下します。これは自然な現象であり、特に高齢者に多く見られます。
全身の筋肉は、大小を合わせるとおよそ400個あります。立ち上がったり、歩いたり、姿勢を保ったりするための筋肉は、生活の質に大きく関わる大切なものです。また、筋肉はエネルギーを燃焼して体温を維持し、筋ポンプ作用によって血流を促す働きもあります。
このように、筋肉は生きていくうえで大切なものですが、加齢とともに筋肉の割合が減っていくことがわかっています。筋肉低下について、世代別・男女別の体内の筋肉の割合は以下のとおりです。
女性 | 男性 | |
---|---|---|
20~30代 | 35%程度 | 40%程度 |
40~50代 | 30%程度 | 35%程度 |
60~70代 | 25%程度 | 30%程度 |
筋力は筋肉の断面積(筋肉量)によって左右されるため、筋力は筋肉量にほぼ比例します。
筋力・筋肉量が落ちる原因は加齢のほか、活動量の不足、病気や栄養不足が挙げられます。
活動量の不足: 運動不足や長期間の安静状態(例えば、病気やけがでベッドに寝たきりになるなど)も筋力低下の原因となります。
筋力低下は少数の筋のみに生じる場合もあれば,多数の筋に生じる場合もあり,発症は突然のこともあれば,緩徐なこともある。原因によっては,他の症状が併存することもある。特定の筋群の筋力低下は,眼球運動障害,構音障害,嚥下困難,または呼吸筋の筋力低下につながる可能性がある。
栄養不足: バランスの取れた食事が摂れないと、筋肉の維持に必要な栄養素が不足し、筋力が低下します。
栄養不足によって起こるサルコペニアの原因には、食事量の低下や偏食、エネルギー不足が関わっています。そのため、食事は主食・主菜・副菜をバランス良く摂取しましょう。
筋肉量の維持にはタンパク質が重要です。特に、良質なタンパク質(分岐鎖アミノ酸)は体内で合成ができないため、多く含む食品を摂取することをおすすめします。例えば、分岐鎖アミノ酸は、まぐろ・かつおなどの赤身の魚や赤身の肉、卵・大豆製品・牛乳などに含まれています。
筋力が低下すると、生活のなかで以下のような症状が見られます。
- ・つまずきやすい
- ・立ち上がるときに手をつく
- ・ペットボトルが開けづらくなった
- ・立ちっぱなしの状態をつらく感じる
- ・猫背の姿勢を楽に感じる
- ・すぐに疲れてしまう
- ・足がむくみやすい
これらの症状が起きる頻度が増えてきた場合は、筋力低下が進んでいる可能性を考えましょう。特につまずきは、注意力不足のせいと思い込んでいるケースがあります。本人も家族も、筋力が低下していると気付かない場合があるので、注意が必要です。
筋力低下が進行すると、歩くのが遅くなるなど日常の身体活動が下がるだけではありません。筋肉によるエネルギーの代謝効率も低下することで、糖尿病などの生活習慣病になるリスクが高まります。
病気: 神経や筋肉に関する病気(例えば、筋ジストロフィーやALSなど)も筋力低下を引き起こすことがあります。
疲労:多くの患者は,実際の症状が疲労である状況で筋力低下を訴えます。また疲労があると,筋力検査の際に最大努力ができず,本来の筋力を出すことができなくなります。
疲労の一般的な原因としては,ほぼ全ての原因による重度の急性疾患のほか,悪性腫瘍,慢性感染症(例,HIV感染症,肝炎,心内膜炎,伝染性単核球症),内分泌疾患,腎不全,肝不全,心不全,貧血などがあります。多発性硬化症は日常生活において疲労を引き起こす可能性があり,これは高温や湿気に曝露することで悪化します。
線維筋痛症,うつ病,または慢性疲労症候群の患者は,筋力低下または疲労を訴えるものの,はっきりした客観的異常が見つからないことがあります。
筋力低下を予防するためには、定期的な運動とバランスの取れた食事が重要です。特に、筋トレや有酸素運動を取り入れることで筋力を維持しやすくなります。
筋力低下を予防するためには、以下のような運動が効果的です:
筋力トレーニング: スクワットや腕立て伏せなどのレジスタンス運動は、筋力を増強し、筋肉の維持に役立ちます。
スネの筋肉を鍛えるトレーニング
ちょっとした段差でつまずき、転倒しそうになることが多い人には、スネの筋肉を鍛えるトレーニングがおすすめです。つま先を持ち上げる前脛骨筋(ぜんけいこつきん)と、脚を持ち上げる股関節の腸腰筋の2つを鍛えましょう。
前脛骨筋を鍛える方法
- 1. 脚を腰幅に開いて立ち、右足を一歩前に出してつま先を持ち上げ、スタンバイします。
- 2. 左足もつま先を持ち上げ、そのままかかとで歩くようなイメージで、両足のつま先を持ち上げたまま30歩歩きます。このとき、体が前に傾いてお尻が後ろに突き出ないよう注意しましょう。
- 3. これを2セット行なってください。
腸腰筋を鍛える方法
- 1. 脚を腰幅に開いて立ってください。
- 2. 右膝をおなかの高さまで持ち上げ、両手で膝下を持つように軽く支えます。
- 3. 支えた両手で右膝を胸に近づけます。このとき、軸脚を曲げたり背中を丸めたりせず、体がまっすぐの状態を保つのがポイントです。
- 4. この動きを両脚10回ずつ、2セット行なってください。
太ももを鍛えるトレーニング
階段や坂道を上るのがつらいと感じる方は、太ももを鍛えるエクササイズを行なうと、体力の低下を感じにくくなるでしょう。
- 1. 座面に背を向けるように椅子の前に立ち、脚を肩幅に開いてください。両手を前方に伸ばして重ね、肩の高さに上げます。
- 2. 息を吸いながら、椅子の座面にお尻が少し触れるところまで、股関節と膝を曲げて腰を落とします。このとき、膝がつま先より前に出すぎないよう注意しましょう。
- 3. 息を吐きながら、ゆっくり膝を伸ばして立ち上がります。
- 4. 5~10回を1セットとして、2~3セット行ないます。きつい場合は膝の角度を浅くし、慣れたら深くしてみましょう。
膝への負担を抑えるトレーニング
生活の質を維持するためには、膝の痛みの予防が重要だといわれています。膝が痛むことによって、活発な活動が億劫になり、筋力低下につながる可能性があるでしょう。
- 1. 仰向けに横たわり、脚を腰幅に開いて両膝を立てます。腕は伸ばし、手のひらを床に向けて体の両脇に置きましょう。
- 2. 息を吐きながら、胸から膝までが一直線になるようゆっくりお尻を持ち上げます。このとき、背中が反らないよう注意してください。
- 3. ひと呼吸おき、息を吸いながら床につかない位置までゆっくりお尻を下ろして止め、「2」を繰り返します。
- 4. 5~10回を1セットとして、2~3セット行なってください。
腹筋を鍛えるトレーニング
腹筋を中心に、体の前面を鍛える上体起こし運動です。
- 1. 両膝を曲げて仰向けになります。
- 2. 頭を上げおへそに視線を向け、肩甲骨を床から少しずつはがすように持ち上げましょう。
- 3. 頭を上げた状態で10秒静止し、少しずつ仰向けに戻します。
ゆっくりした速度で行なう筋トレをスロートレーニングと総称します。体にとって軽めの負荷ではあるものの、ゆっくりとした動きをすることで筋肥大・筋力増強効果が期待できるでしょう。
スロートレーニングは「5秒程度のスパンで上げて、5秒程度のスパンで下げる」という動作がポイントです。
例えば、スクワットでは完全に立ち上がらずにもとの姿勢に戻る、腕立て伏せでも完全に腕を伸ばす前にもとに戻すというのがスロートレーニングにあたります。
筋肉の線維は、その特徴から以下の2種類に分けられます。
速筋 | ・パワーが高い ・持久性が低い ・疲労しやすい ・筋力に関係する |
---|---|
遅筋 | ・パワーは小さい ・持久性が高い ・疲労に対する耐性が高い ・筋持久力に関係する |
筋力を高めるためには、有酸素運動ではなく筋トレで速筋を鍛えるのが有効です。
筋トレは、以下3つのポイントを押さえて行ないましょう。
- ・動作はゆっくりと行なう
- ・動作を繰り返すときは力を抜かない
- ・心地良い疲労感が残る程度の回数で行なう
それでは、家でも簡単にできる筋トレを3つ紹介します。
もも上げ(腸腰筋を鍛える)
椅子の背をつかんでまっすぐに立ち、片膝を高く持ち上げましょう。片膝を下ろす際も、足を床につけずに繰り返します。
ハーフスクワット(大腿四頭筋を鍛える)
両足を肩幅ほどに開いて立ち、ゆっくり膝を曲げ、膝が直角になる程度まで腰を落とします。戻す際もゆっくりと膝を伸ばして腰を持ち上げましょう。この動作を、膝が伸び切らないところで繰り返してください。
爪先立ち(下腿三頭筋を鍛える)
椅子の背をつかんでまっすぐに立ち、かかとを高く持ち上げます。かかとを下ろす際も、床につけずに繰り返しましょう。
いつまでも元気に歩いたり、いろいろなことにチャレンジしたりするためには、十分な筋肉量が大切です。また、筋力の低下は転倒や骨折、寝たきりなどにつながるおそれがあります。
栄養や運動を意識して筋力低下を予防し、アクティブな毎日を楽しみましょう。